🎻あらやんとバイオリン弾こか🎻番外編 オーケストラには🐯虎が居る?
【虎】といっても本物の虎ではありません。エキストラのトラです。
日本語はよく省略しますね、音楽の世界ではよくあります。例えばベートーベンの7番の交響曲はベトシチ。ブラームスの交響曲第1番はブライチ。
チャイコフスキーの5番のシンフォニーはチャイ5。アイネクライネナハトムジークはアイネク、たまにアイクラと言うこともあります。なんか省略もほどほどにしたほうがいいような気がしますね。
まぁその世界の隠語と言うのでしょうか、ギャラはラーギャみたいな楽隊用語ですが、、スタジオの世界ではバイオリンのことを(オリンちゃん)て言いますから。。GマンDセンは5万2千円とか、、一般の方にわからない様してるのでしょうね。
もひとつ余談です、、福岡には(サンパレス)と言うホールがありますが、それを省略してインスペクターは時に(サンパレ)と言います。(ス)位言ってもいいとちゃうかなと思いますけども、、、
だからエキストラは【トラ】なのです。
オーケストラは通常の編成よりも多い人数が必要な時や、団員が有給休暇や長期留学などで休むときの欠員補充を事務所はエキストラに手配します。エキストラは弦楽器ではたいていの場合団員の後ろに座ります。
エキストラと契約団員の違いは終身雇用の契約団員と違ってエキストラは福利厚生も無いその場1回限りの契約です。弾けなかったとか失敗したとかが許されません。
またリハーサルや本番に遅刻等もってのほかです。とても厳しい立場なのです。神経をすり減らし皆さんに気を使い、しかも演奏も完全に近く対応できるようにしなければならない、本当に難しい厳しい立場です。身分制度があるような封建的な世界が残っています。
プロオーケストラの仕事は大きく3つに分かれます。
この中でエキストラが1番大変なのは、どれも大変なのですが、多分②のコンサートだと思います。なぜならオーケストラの団員には練習回数も少なくほぼ暗譜する位に慣れたプログラムだからです。
例えばモルダウ、運命、白鳥の湖、スターウォーズ、くるみ割り人形、楽器紹介など聴く人にとっては楽しい曲なのですがこういう曲はそのオーケストラのレパートリーになっていますから短い時間しか練習しません(あるときは練習がない時もあります)
冬の寒い朝の10時からいきなりモルダウを弾くのは大変です。オーケストラの音楽教室の楽器紹介など意外に難しいです。
団員は今まで何回も何回も演奏しているのでほぼ譜面を見ないでも弾けるくらいです。エキストラの人は凄く焦ることでしょう。また普段オーケストラのメンバーはみんな一緒に行動しますから特にお互いに興味は持ちませんが、新しいエキストラの方が入ってくると『今日のエキストラはどんな人かな?』と興味を持って注目されます。
私は学生時代に大阪フィルハーモニー交響楽団の音楽教室に何度かエキストラで呼んでもらったことがあります。その際、リハーサルは当日の本番前だけでした。その時、リハーサルはあまりなかったので楽譜の確認をしたくて、、ここはどういう風にカットしているのですか?とかこれはどういう風に弾くのですか?とか団員の方に尋ねました。今でもよく覚えているのですが団員の方は『適当に頑張ってね』と言われましたが、その適当というのがどれくらいのことなのか全くわからず困りました。こわごわ演奏したのを覚えています。今となれば全く問題のないことなのですが、学生さんで音楽教室の仕事を多くしたことなければわからないでしょう。
モルダウと言う曲はメロディーはとても美しい曲なのですが最後の2ページがものすごく難しいです。団員は今まで死ぬぐらい弾いていますからほぼ暗譜で弾けますが、エキストラの方は、、それでまたまた焦ります。
この曲はオーケストラのオーディションで出る位の大変な難曲なのです。でも音楽教室のリハーサルでは一回通すくらいです。
またベートーベンの運命の第一楽章の出だしはものすごく難しいのです。経験値がものをいいます。どのように指揮者が降り下ろしたら弾くのかどのタイミングで出たらいいのか、指揮者によってまちまちだからです。そしてフェルマータの後の動き出しに乗れるかどうか、とても難しいです。
プロオーケストラに仕事を単発で依頼される様になるだけでも大変なことですが、オーケストラに常時呼んでもらえるのはもっと大変です。常時依頼されるエキストラのことを常トラといいます。常トラになるためには実力はもちろん必要ですが、しかし見ているとそれだけでは無いようです。
自分の方があのエキストラより実力は上手だと思うのにどうして自分はオーケストラに呼ばれる回数が少ないのだろう?みたいな事は側でよく見かけました。人間の付き合いですからやはりそういう事は起きてくるのだろうと思います。事務所の方や団員と仲良く、思いやりのある交流ができる人柄が大切です。もちろん最低限の実力は要りますが。
そういうところで人力に差が出るのでしょう。
団員の後ろで弾いいたり並んで弾くこともあるので団員の横で弾く際に隣の団員や前のメンバーの方に気を使い普通にコミュニケーションができなければいけません。
エキストラは団員にこの人と一緒に仕事をしたいなと思わせる能力が必要だと思います。
またエキストラは楽屋でどの場所に楽器を置いてどこで着替えるかと言うことにも気を使わなければなりません。なぜならオーケストラのメンバーは楽屋で大体楽器の置く場所とか着替える場所は暗に決まっているものなのです。
以前、私が他のオーケストラに客演に行った際に『ここは空いてますか?』とか『ここは使っていいですか?』とか団員聞くようにしていました。そしてそこのオーケストラの方が『そこは空いてますよ』って言えば使わせてもらうのです。何の気遣いもなく当然のように楽器を置いたりすると、そこがベテランの団員の置く場所だったりしたら、とんでもないことになります。良い印象にはなりません。
そういう事も気遣いできなければならないのです。
私は団員になってからも他のオーケストラのエキストラで出演させていただいたことがその時に自分のオーケストラに出演してくれるエキストラの大切さや、ありがたさが自分でも実感しました。
どこのオーケストラでも後ろに座るバイオリン奏者はエキストラが座っている可能性が多いと思います。若い演奏家が一生懸命オーケストラの手伝いをし後を守っている。そういう姿をこれからコンサート聴きに行った際に見てあげてください。
指揮者やコンサートマスターや首席奏者のところに目をいくばかりでなくオーケストラの末席にどういう人が座っているかと言うことがそのオーケストラの実力だと思います。
エキストラは責任を持って仕事をしてくださるのだからオーケストラにとってはとてもありがたく助かる存在なのです。