自分の生徒がオーディションを受けることになり、ふと、自分自身の首席オーディションのことを思い出しました。
オーケストラのオーディションでは、いわゆる定番の難曲が並びます。
リヒャルト・シュトラウス《ドン・ファン》
メンデルスゾーン《スケルツォ》
スメタナ《売られた花嫁》
メンデルスゾーン《イタリア》
モーツァルト 交響曲第39番
こうした曲が並ぶだけでも、十分に厳しい本番です。
けれど、私にとって本当に大変だったのは、曲の難しさだけではありませんでした。
首席オーディションの審査員席には、10年間一緒に演奏してきた楽団員たちが座っていました。
昨日まで同じ舞台で音を出していた仲間が、今日は審査する側にいる。
その空気は、普通の本番とはまったく違いました。
演奏技術だけでなく、集中力、精神力、そしてその場に立ち続ける力まで試されているような時間でした。
無事に終えることはできましたが、終わったあと、体には大きな反動が来ました。
しばらく胃の調子を崩し、食事も思うように取れず、体重も落ちました。
それほど、私にとってあのオーディションは大きな経験でした。
今、生徒がオーディションに向かおうとしているのを見て、改めて思います。
オーディションで大切なのは、ただ上手に弾くことだけではありません。
緊張の中で、自分の音を失わないこと。
人に聴かれる場で、自分の音楽を出し切ること。
そして、結果に関係なく、その経験を次につなげること。
私自身が身をもって経験したからこそ、オーディションに向かう生徒には、技術だけでなく、心の準備も伝えていきたいと思っています。