ヴァイオリンを選ぶとき、皆さんは何を基準にされるでしょうか。
おそらく多くの方が、何本かの楽器を弾き比べて、
「この楽器はよく鳴る」
「こちらは柔らかい音がする」
「この音が一番好きだ」
そんなふうに選ばれるのではないでしょうか。
もちろん、それが間違っているということではありません。
ヴァイオリンは音楽を奏でる道具なのですから、音を聴くことは当然大切です。
でも私は、長い間いろいろなヴァイオリンを弾き、所有し、また生徒さんたちの楽器選びにも関わってきて、ひとつ強く思うことがあります。
ヴァイオリンを、そのとき鳴っている音だけでは選ばない。
ということです。
音は意外なほど変わる
なぜか。
ヴァイオリンの音というものは、思っている以上に変わるからです。
それだけでも音の印象はかなり変わります。
少し鳴りにくいと思っていた楽器が、きちんと調整した途端に生き生きと鳴り始めることもあります。
反対に、楽器店で弾いたときには華やかによく鳴っていたのに、しばらく付き合ってみると、
「どうも自分の思うような音が作れない」ということもあります。
ですから私は、その瞬間に耳に入ってきた「いい音」だけを、その楽器の価値だとは考えません。
では、何を見るのでしょう。
私は「変えられないところ」を見ます
たとえば、パーフリングです。
どんなふうに入っているのか。
コーナーに向かって、線がどう流れているのか。
エッジとの関係はどうなっているのか。
そして渦巻き。
横から見たときの形、正面から見たときのバランス、彫りの深さ、最後にどのように収めているのか。
f字孔もそうです。
アーチングも、コーナーも、エッジの仕事もそうです。
こういうところは、買ってから魂柱を動かすように簡単に変えることはできません。
そこには製作者の技術だけでなく、考え方や美的感覚まで出てきます。
ただし、ここで言う「見た目」とは、
「古そうに見える」
「高そうに見える」
「ピカピカしてきれい」
という意味ではありません。
楽器全体を見たときに、製作者が何を美しいと思って作ったのか。
細かな部分まで、その考えが通っているのか。
そこを見るのです。
何百年も使われてきたようなニスの摩耗や色の変化まで、とても巧みに表現されています。
これはこれで、相当な美的センスが必要な仕事だと思います。
ただ私は、必ずしも新しいヴァイオリンを古く見せる必要はないとも思っています。
新作には、新作としての美しさがあっていい。
ニスや下地が美しく、木そのものの表情が生きていれば、オールド・イミテーションでなくても舞台の上で十分な風格があります。
もちろん弾きます
では外観だけで楽器を買うのか。
もちろん、そんなことはありません。
最後には必ず弾きます。
ただ、そのとき私が知りたいのは、
「今、いい音が鳴っているか」だけではありません。
こちらが弓の速度を変えたら、どう反応するのか。
接点を変えたらどうなるのか。
左手のタッチを変えたら、響きがどう変わるのか。
弱い音から強い音まで、どれだけ幅を持っているのか。
そして何より、
そこを見ます。
私にはその方が大切なのです。
ヴァイオリン選びには、もちろん正解があるわけではありません。
演奏する人によって、求めるものも違います。
明るい音が好きな人もいれば、深い音が好きな人もいる。
オールドの風格が好きな人もいれば、新作の良さを好む人もいるでしょう。
それでいいと思います。
ただ、これから楽器を選ぼうとしている方には、一度考えてみてほしいことがあります。
目の前のヴァイオリンから、今聞こえている音。
それは、その楽器のすべてではありません。
調整によっても変わります。
弾き手によっても変わります。
そして、長く弾き込むことによっても変わっていきます。
だから私は、まず楽器そのものを見ます。
変えられるものより、変えられないものを見る。
その上で弓を持ち、この楽器とどんな音楽を作っていけるのかを確かめる。
長く付き合うヴァイオリンを選ぶということは、本来そういうことなのではないか。
私はそんなふうに思っています。