「私は大人から始めたので、難しい曲までは弾けなくてもいいんです」
レッスンをしていると、そんなお話をよく伺います。
大人になってヴァイオリンを始める方の多くは、難しい協奏曲を弾くことよりも、一曲でも好きな曲を、美しい音で弾けるようになりたいという思いでレッスンに来られます。
もちろん、大人から始めてもチャイコフスキーやブラームスの協奏曲を目標にされる方もいらっしゃいます。
しかし、多くの方にとって一番の願いは、
「好きな曲を、自分らしい音で気持ちよく弾きたい。」
ということではないでしょうか。
だからこそ、
そう考えてしまう方も少なくありません。
しかし私は、長年演奏し、多くの生徒さんを指導する中で、
そこに大切な落とし穴があると感じています。
「6ポジションが大事」という言葉
学生時代、ある先生から、
という話を聞いたことがあります。
当時の私は、その意味がよく分かりませんでした。
ヴァイオリンでは一般的に、1・3・5・7ポジションが大切だと言われています。
それなのに、なぜ6ポジションなのだろう。
不思議に思ったことを今でも覚えています。
しかし、演奏を続け、多くの生徒さんを指導するようになって、その言葉の意味が少しずつ分かるようになりました。
サードポジションまでは、多くの方が行けます
大人から始めた方でも、ファーストポジションからサードポジションくらいまでは比較的自然に移動できます。
ところが、
5ポジション
6ポジション
7ポジション……
そのあたりになると急に動きがぎこちなくなる方が少なくありません。
一般には、
「左手が硬いから。」
「指が届かないから。」
と言われることもあります。
しかし私は、本当の原因はそこではないと考えています。
私が最も大切だと思っているのは、
ヴァイオリンのセットアップです
ヴァイオリンは、体をまっすぐ正面に向けた「気をつけ」の姿勢では弾くことができません。
左肩が少し前へ入り、その肩の上に自然に楽器が乗る。
顎、肩、そして左手が無理なくバランスを取りながら楽器を支える。
その状態になって初めて、左手は本当の意味で自由になります。
子どもの頃から始めた人は、この身体の使い方を自然に身につけます。
ところが、大人から始めた方は、この感覚を理解するまでに時間がかかります。
そのため、高いポジションへ行こうとすると、無意識に左手で楽器を支えようとしてしまいます。
すると、ヴァイオリンの胴体とネックのつなぎ目で動きが止まり、ポジションチェンジがぎこちなくなるのです。
ハイポジションは、セットアップを教えてくれます
私は、生徒さんにハイポジションを勉強していただくのは、難しい曲を弾くためではありません。
ハイポジションへ行くことで初めて、
「どうすれば左手が自由になるのか」
を身体で理解できるからです。
6ポジション付近まで自然に動けるようになる頃には、
楽器を無理なく支えられるようになり、左手は自由になり、
ポジションチェンジも滑らかになります。
つまり、
音色まで変わります
セットアップが整うと、高いポジションだけではありません。
ファーストポジションの音まで変わります。
左手が自由になることで弦は自然に振動し、その振動を右手が素直に育てることができるようになります。
私はこれまで、
「左手が弦の振動を決め、右手がその振動を育てる。」
ということを、音色についてお話ししてきました。
その土台になるのが、セットアップなのです。
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私は今でも6ポジションを練習します
演奏生活を長く続けてきた今でも、
私は6ポジションの練習を必ず行います。
それは、高い音を弾くためではありません。
自分のセットアップが崩れていないか、
左手が本当に自由に動いているか、
そのことを確認するためです。
6ポジションは、私にとって技術練習ではなく、
ヴァイオリンという楽器と向き合うための「原点」なのです。
大人だからこそ、できるヴァイオリンがあります
私は、大人から始めることが不利だとは思っていません。
一曲を大切に弾こうとする心。
音楽を味わう喜び。
人の気持ちに寄り添える感性。
それは、大人だからこその財産です。
だから私は、大人の生徒さんにもハイポジションへ挑戦していただきます。難しい曲を弾くためではありません。
ヴァイオリンという楽器をもっと自然に理解し、もっと自由に歌わせるためです。
そして、その先にあるのが、