音色セミナーを始めてから、よくこんなことを言われます。
「毎月、新しいテーマがありますね。」
その言葉をいただくたびに、私は以前の自分を思い出します。
実は、セミナーを始めた頃の私は、「毎回、新しいことを話さなければならない」と思っていました。
前回と同じことを話してはいけない。
そんな気持ちがどこかにあったのです。
しかし、回を重ねるうちに、一つのことに気づきました。
私は毎月、新しい理論を話しているのではありません。
一つの理論を、毎回違う角度からお話ししているだけなのです。
私が長年考え続けてきたことは、とてもシンプルです。
この問いを追い続けて、私はさまざまな場所で学びました。
ニューヨークでは、演奏の土台となるセットアップを学びました。
ドイツでは、ポジションチェンジについて深く学びました。
九州交響楽団では三十八年間、多くの指揮者や演奏家と音楽を作り続けました。
そして、レッスンでは子どもから大人まで、本当にたくさんの方と向き合ってきました。
その頃は、それぞれが別々の知識だと思っていました。
ところが七十歳を過ぎた頃、不思議なことが起こりました。
頭の中で、それらが一本につながったのです。
左手のタッチ。
ボーイング。
接点。
ポジションチェンジ。
ビブラート。
セットアップ。
楽器。
弦。
どれも独立した技術ではありませんでした。
すべてが「音色」という一つのテーマの中で結びついていたのです。
このことに気づいてから、私の教え方も変わりました。
「今日は左手だけ。」
「今日はボーイングだけ。」
そういう考え方ではなくなりました。
左手を説明するときも、必ず音色につながる。
ビブラートを説明するときも、必ず左手の自由につながる。
楽器の話をするときも、最後は演奏者自身の音作りにつながる。
すべてが一本の線の上にあります。
同じ山を、毎回違う登山道から登っているようなものです。
東側から登れば見える景色が違います。
西側から登れば、また違う景色があります。
しかし、頂上は一つです。
教育も同じではないでしょうか。
本当に大切なのは、新しい知識を次々と増やすことではありません。
一つの本質を、少しずつ深く理解していくことです。
私は71歳になりました。
正直に言えば、若い頃より体力は落ちています。
けれど、見える景色は若い頃よりずっと広くなりました。
四十年、五十年と積み重ねてきた経験が、ようやく一本の線になったからです。
だから今、私には一つの願いがあります。
私が何十年もかけて気づいたことを、もっと若い世代や、多くのヴァイオリン愛好家の皆さんに伝えたい。
遠回りをしなくてもいいように。
私が何十年もかかったことを、もっと早く知っていただけるように。
それが教師の役目だと思っています。
これからも私は、新しい理論を追い求めるのではなく、
一つの理論を、百通りの角度から伝え続けていきたい。
それが私の音色セミナーであり、YouTubeであり、レッスンであり、これから書いていく文章でもあります。
音色の探求に終わりはありません。
だから私も、これから先も学び続け、考え続け、そして伝え続けていきたいと思っています。